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シャドゥ・ハンター・エピローグ


 月曜の朝、大樹、英明、孝子の三人は、久しぶりに一緒に学校へ登校していた。
「小学生じゃあるまいし、ど〜してオレが、英明といっしょに学校へ行かなくちゃならねぇのさ」
 孝子にたたき起こされた大樹は、生あくびをかみころす。この時間は、いつもならまだ布団の中なのである。
「高野君の手首のねんざがひどくなったのは、少しは私たちに責任があるでしょう?登下校時のかばん持ち、授業中のノート取り、友だちなら、それくらいは当然よ」
 英明のきき手である右の手首は、白い三角巾(きん)の中におさめられていた。骨には異常がなかったが、筋をひどく痛めているということで、全治三週間と診断されていた。
「それに、高野君といっしょに登校するなら、大樹は当分遅刻しなくてすむでしょう?」
「ついでに、学校から帰った後は、宿題もいっしょにやろう。いつも丸うつしばかりだと、大樹のためにもならないからね」
「へーへー」
 あれ、と、孝子は思った。いつもの大樹なら、余裕の登校とか勉強とかいっためんどうなことをきらって、ごちゃごちゃとなんくせをつけ、すぐに走って逃げ出すところである。しかし今日は、めんどくさそうに歩いてはいたが、英明のかばんもちゃんと持って、素直についてきている。英明にしても、宿題をいっしょにやろう、なんて、思ってはいたかもしれないが、今まで一度だって大樹に直接言ったことはない。
 孝子は、鏡の世界へ飛び込んだ時のことを思い出していた。シャドゥ・ハンターの少年から合わせ鏡の話を聞いた時、二人は、珍しく真剣な言い争いをした。その時孝子は、仲が悪くなったのではないのかと不安になったが、今ようやく、わかった。
 あのあたりから二人の間は、今までの付き合いよりも、一歩ふみこんだ、からを破ったものになったのだ。気にすることも、遠慮することもなく、心の内をなんでも言い合える……そう、口に出して言えばテレるが、真の友情といえるものに。
 なんだか孝子は、大樹と英明がちょっぴりうらやましくなった。
「そう言えば、あの子、どうなったのかしら」
 あの子というのはもちろん、シャドゥ・ハンターの少年のことである。
「合わせ鏡の世界に、吸い込まれちまったよな。英明を助けようとして」
「多分、どこかの世界で無事にいるよ。ぼくよりもずっと、鏡の世界の間をくぐるのが上手だったから」
「……名前、聞かなかったわね。彼の」
 孝子がぽつりと言った。
「それにオレ、あいつの影をを探してやるって約束したのに、守れなかった。あいつは、約束以上のことをやってくれたのにサ」
 三人の間に、にがい沈黙が流れた。わざとではなかったのだが、結果的には、あの少年には少しもいいことがなくて、自分たちばかり得してしまったのである。
 暗く黙りこくったまま、三人は中学校の門をくぐった。
 B組の教室の前まで来た時、ろう下の向こうの方から、周囲の女子生徒の「きゃあ」とか「わぁ」とかいう歓声を巻き込みながら、四、五人の集団がやって来た。
「なんだぁ?あいつら」
「なぁ、頼むよぉ、影山君。ぜひぜひ陸上部に、な?」
 田村をはじめとするB組の陸上部員が、先頭を歩いている少年の後を追いかけ、必死で入部を勧誘している。しかし少年は、暗い硬い表情のまま、ぼう然とつっ立っている英明ら三人の前を通りぬけ、足早にB組の教室へ逃げ込んだ。
「ちょちょっと待て、田村!」
 少年のあとを追って教室へ入ろうとした田村を、大樹は引き止めた。
「あいつ、だれなんだ!?」
「だれって、今度来た転校生……。あ、そうか、大樹は土曜、C組の神原さんと、授業をさぼってデートしてたもんな」
 田村は、大樹の後ろにいる孝子を見て、にやりとする。
「モテる男は、つらいねぇ」
「デートぉ!?オレが、コーコと!?」
 大樹は、げっそりする。
「やめてくれよぉ、よりにもよって、あんな男女と……」
「男女とはなによ、オトコオンナとは!」
 目をつりあげて怒る孝子と大樹の間に、英明が割って入る。
「ストップ!今は、それどころじゃないだろう?」
 英明の言う通りだった。田村の勧誘していた少年は、まさに、シャドゥ・ハンターの少年その人だったのである。
「けど、オレたちを見ても、知らんぷりだったぜ、あいつ」
「土曜日に学校へいたということは、ぼくたちが鏡の世界で会った少年とは
 別の人間になる。そっくり、うりふたつだけどね」
「じゃあ、あの、今B組にいる子は……」
 英明は、大きくうなずく。
「あの少年がなくしてしまった、影だ」
 三人は、ろう下から窓ごしに、田村たちに囲まれながら教室の席に座っている少年を見た。
「ほら、あの、えんじ色の詰め襟。胸ポケットの位置が、シャドゥ・ハンターの少年と、左右逆になっているだろう?」
「本当だわ!」
「覚えてねぇなぁ」
 そんな細かいところまで、大樹が注意して見ているはずがない。
「けど、よかったよかった。これで、あいつとの約束が守れる」
「でもどうやって、本人を探すんだ?影がもどってきたから、ぼくにはもう鏡面を造る力がないんだよ?」
 それに、二枚の鏡面を一度に造るのは、並たいていの技ではできない。
「なんとかなるさ。造れなきゃ、便所の鏡をちょっと借りてきて、合わせ鏡にするとかさ」
 大樹は先に、教室へ入る。
「とりあえず、あいつとも友だちになってくるよ。その方が話は早いだろう?」
「ぼくも行くよ。……ぼくだって、彼を助けたい」
「私だって、そうよ」
 三人とも、気持ちは同じだった。
 それを聞いて、大樹はにやりとする。
「じゃ、土曜の朝みたいに、乱入するか?コーコ」
「大樹っ!」
 顔を真っ赤にして怒る孝子を後にして、大樹は、なぜ孝子が怒っているのかわからない英明を引き連れ、B組の教室へ――シャドゥ・ハンターの少年の影の席へ向かった。
(完)


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