11月28日に緑資源幹線林道に関わる、第9回検討委員会が開催されました。
この日の検討委員会は、報告書素案の承認という最終段階となると予測されていたとおり、かなり強引な、つまりは検討不十分なまま、承認という結果に終わりました。
 これまでの委員会傍聴記でもしつこく述べてきたように、細見谷渓畔林の多様性の保全という視点を欠いたままの、個別的、便宜的、ご都合主義的文言操作の集大成というこの素案が承認されたことは、大変に残念であり、腹立たしい限りです。
しかしながら、この素案の承認がすんなりと決まったわけではありません。
波田委員からは、承認できない旨の発言があり、一悶着ありました。波田委員は委員会の席上、細見谷林道に関する意見として、以下に示す文書を委員および事務局に配布し、声明を出そうとしたところ、座長から文書配布の禁止を申し渡されました。検討委員が、検討委員会で発言し、その内容を資料として配付することに何の不都合があるのでしょうか。まさに、言論弾圧としかいいようがありません。
座長曰く、検討委員会に諮って承認を得てからにしてくださいとのことで、波田委員は、その旨提案をしました。しかし委員の間から、「異議あり」の声は上がらず、この時点で、波田委員の動議は認められたはずですが、意味不明の言説を弄してとうとう、発言を許可しませんでした。
やむなく、波田委員は資料を回収し、口頭で同じ内容の発言をしたのです。
以下、配布資料(波田委員から個人資料となったので配布は自由ですとの許可を得ています)を掲載します。
 
------------以下配布文書---------------------------
岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム学科  
波田善夫

1. 調査精度に関する見解
 自然環境に関する調査は、項目・内容に関し、不十分な点が多く、現時点においては評価が困難である。当該林道に関する調査は平成13年から開始されており、その後も一部項目に関して追加調査・継続調査が行われてきたが、現時点においても不十分であると指摘せざるを得ない。
 a.植物相調査
基礎となる植物相調査では、多くの種の未記載が自然保護団体から指摘されている。自然保護団体の調査によるリストとの一致性は低く、60%を超える程度にとどまっている。両資料の比較検討の結果、調査範囲の違いや見解の違いなどによる差異が認められるものの、異なる種は分布可能性の高いものである。このことから、両リストの差異は、調査回数・日数の少なさに起因するものであると考えられる。おそらく、緑資源公団による調査は、調査適期に実施できていない可能性が高いと指摘せざるを得ない。
植物相は植物に関する調査・評価の基礎となるものであり、現状のリストでは、多くの種が把握できていないと考えられるので、保護・保全策への立案・対策が困難である。また、現状のリストは不十分であることから、公文書としての印刷・公表には難点があり、植物を専門とする委員として、責任をもてないことを指摘しておく。

 b.水生昆虫
 水生昆虫の調査は、定量的・定性的調査を実施することとしている(4-3)。しかしながら、調査結果は十分なものとは評価できない。調査報告書には、カワゲラ目として24の種(分類群)が掲載されている。これに対し、水生昆虫を専門とする研究者の調査によれば、現時点において63種の生息が確認されており、このうち少なくとも15種が未記載ないし現段階で所属不明の種であることを認めている。

森生枝・竹門康弘によるレポートでは
「道路の舗装化によって下流部への湧水量が減少する等の現象は経験的にもよく知られているところである.今回の調査結果から,細見谷の林道舗装に際しては、伏流環境とそこを利用する生物をも含めた、より些細な調査があらかじめ行われるべきであると判断する.さらに,それらの知見を集約ならびに整理した上で計画の是非そのものを改めて問い直す必要がある。」と結論している。
この調査は継続中であり、その他の水生昆虫に関しても整理が進行中であるものの、細見谷の水生昆虫相は特異なものであり、さらに解析が進むことによって、評価は一層高いものになるものと予想される。したがって、緑資源による調査はまことに不十分であり、現状を把握できておらず、当然その保護・保全対策も立案が不可能であることを示している。

2. モニタリングに関して
 現在の方針は、調査の不備をフォローアップ調査で補うとしている。この姿勢は、自然への影響の如何に係らず着工することを意味しており、基本的なルールとして、容認できない。
 モニタリングは、スタートとなる現状を正しく把握できていることが前提であり、不十分な現状把握からの開始では、モニタリングを実施することが不可能である。したがって、モニタリングすることができる現状把握ができていない状況では、着工することはできない。

3. 西中国山地における細見谷の評価
 調査は不十分であるにもかかわらず、各項目において細見谷の自然の素晴らしさが認識されるものとなっている。今回の調査は、細見谷の林道整備地域に限定された、局所的なものにとどまっており、中国地方における細見谷の位置づけや評価に関する視点が欠落している。開発行為によるアセスメントでは、このような広域的な視野が欠落する傾向が高く、致し方ない側面があった。しかしながら、これまでの様々な議論の中から、細見谷の自然の特殊性・優位性があきらかになった現状においては、中国地方あるいは西中国山地の中核としての細見谷を評価する必要がある。
 そもそも、本林道の整備計画立案は、自然環境への影響を勘案して立案されたものであるとは考えにくく、自然環境の現状やその後の社会基盤・経済状況の変化は反映されていない。西中国山地の現状や細見谷の自然を考慮するならば、このような地域に対して、単なる通過車両を増大させるインパクトを与える計画を立案すべきではなかった。

 林道整備という観点を離れて細見谷とその周辺地域の自然を観るならば、自然を優先すべき地域であることは明らかであろう。しかしながら、地域には生産林も広く存在し、地域住民の営みも存在する。これらの営みのためにある程度の林道の存在と整備は必要であり、認めざるを得ない側面がある。そのことを容認するとしても、細見谷の自然の優越性から、単なる通過車両を発生させる事は認めがたい。この地域の林道整備のあり方は、この地域への来訪目的を持つ車両のみの林道利用のみに限られるべきであり、夜間通行禁止や許可車両のみの利用など、利用制限が必要である。

4. 雑感
今回の委員会の運営を振り返ると、委員会開始時にはすでに調査が実施されており、その結果を審議するものであった。即ち、調査すべき項目と精度に関する審議は行いにくい状態からの出発であった。実施された調査内容は、緑資源公団の基準によるものであり、通常のアセスメントの内容に比べ、低いレベルにとどまっている。このことから、委員会での議論・注文が相次ぐこととなり、9回にもおよぶ委員会開催となった。委員会の開催によって、文言のみの修正が中心となり、現状把握に関する調査が不十分なまま進行したことは残念である。
このような中、緑資源公団の姿勢は、「計画を放棄すること」以外のほとんどは委員会の意見に対応するという、過去になかった柔軟なものであり、設計の変更や自然の回復などに関する姿勢も特筆すべきものであったと評価する。林道を整備するという命題を大前提としながら、自然に対しても高いレベルで配慮し、対応していただいた過程は、従来の林道建設では見られなかったものであった。限られた権限の中での対応としては、最高レベルのものであったと認識しており、対応に深謝する。
しかしながら、高いレベルの自然に対して対応した結果、当該林道の一般的利用はほとんど望めない状況へと変質してしまった。近年の財政状況を考慮するならば、中止すべき公共事業の筆頭であろう。

今後、更なる調査を実施すれば、現在把握できている以上に細見谷の自然が高く評価される結果以外には予想は存在せず、「高いレベルで自然に配慮したものの、影響は回避できない」との結論とし、委員会を結審すべきである。

 緑資源公団は、自然を守る役割もある。この地域を西中国山地の中核として位置づけ、自然が人間の利用に比べて優位に立つ地域として存続させ、発展させる責務を持っている。今後、そのような活動に方向転換していただくことを要望する。
 
添付資料

 

カワゲラ目の生息状況からみた細見谷の特徴とその貴重性について

 
 2004年9月から2005年10月にかけて細見谷流域を踏査し、本流ならびに支流の底生動物の採集調査ならびに水生昆虫の成虫採集調査を行った。全採集物を同定し水生昆虫相のリストを完成するためには、目や科別に専門家の鑑定を受ける必要があるため、少なくとも今後数ヶ月程度の時間が必要であるが、ここでは現時点で判明した事実から注目すべき点について簡単に報告することにする。

 カワゲラ目については、63種が確認され、このうち少なくとも15種が未記載ないし現段階で所属不明の種であった。すなわち,確認された種の約24%が、今後新種や新記録として記載される可能性がある種であることが分かった。また,これら15種のうちの5種は日本固有属に属するものであった。

 今回、確認された総種数(63種)は,本州の山地域の数値としては,必ずしも特記するべき多様性ではないものの、未記載種ないし所属不明種の割合が約24%と高いことは特筆に値する.すなわち,日本産カワゲラ目の既知種の総数が約200種であることを考えれば、15種もの未記載種ないし所属不明種が狭い範囲から確認されたことは驚異的な事実といえる.その原因として,1)細見谷が狭い範囲に滝のような源流環境から里山の谷戸のような湿地環境まで多様な生息場所が存在している可能性や,2)細見谷地域の水生昆虫群集が生物地理学的に特異な種組成をもっている可能性などが考えられる.また,15種のうちの5種が大陸から近縁種が確認されていない日本固有属に属するという事実は、この地域が生物地理学的に重要な場所であることを示している。

 
 カワゲラ目のうち、カワゲラ科の一部(ナガカワゲラ属 Kiotina,コナガカワゲラ属 Gibosia)、クロカワゲラ科、ホソカワゲラ科の各種では、幼虫(とくに若齢)が河床間隙水域(hyporheic zone)に潜って生息すると考えられている.しかも,本調査で未記載種ないし所属不明種として確認された15種のうち、少なくとも4種が幼虫時代を河床下間隙などで成長することが考えられている。さらに,このうち1種は日本固有属に属する。以上の事実から、細見谷の水生昆虫相やその貴重性の源泉として,伏流水の健康状態がきわめて重要な環境要素であることが予測される。

 道路の舗装化によって下流部への湧水量が減少する等の現象は経験的にもよく知られているところである.今回の調査結果から,細見谷の林道舗装に際しては、伏流環境とそこを利用する生物をも含めた、より些細な調査があらかじめ行われるべきであると判断する.さらに,それらの知見を集約ならびに整理した上で計画の是非そのものを改めて問い直す必要がある。

 2005年11月26日 清水高男氏の同定結果をもとに森生枝・竹門康弘が執筆)

 

---------------------以上配布文書------------------------------------
 
さらに、哺乳類では、アナグマがリストから抜けていたり(意見書にてアナグマの生息を指摘していたにもかかわらず)、モグラ類の同定ができていなかったりと機構側の資料には様々な欠陥があることが、以前から指摘されてきたにもかかわらず、不完全な情報に基づいて議論した保全策が、相当な合理性を持ち得ないことは明白である。
不十分であれば、もっと時間をかけて、より多くの人が納得できる内容の資料を準備するのが当然の義務である。
もう一つ、重大な欠陥を指摘しておこう。
石橋委員から、夜行性動物に対する保全策として「夜間の通行禁止措置」が提言された。昼は人間が夜は夜行性動物が林道を利用する形で、棲み分ければよい」との発想らしい。一見もっともらしいこの提案だが、この人がイメージしているヒキガエルやツキノワグマなどの夜行性といわれている動物は昼間にも活動しているという事実を見落としてはいないだろうか。夜間の通行規制だけでは十分な保全措置とはいえないし、実際の運用上、実効性はあるのか大いに疑問である。
 第一夜間とは何時から何時までの間かも議論されていない。もっとも肝心なのは、それが実行される保証などどこにもないということだ。受け入れ側の廿日市市がその提案を拒否したら、資源機構は現状復帰をするつもりなのだろうか。完成した後に、あるいは移管後に資源機構の権限はなくなるのだから、そんな空約束は全く意味がない。
これはほんの一例だが、この検討委員会は、この手の議論が横行している。空手形のオンパレードである。その最たるものが、フォローアップ調査である。波田委員が指摘しているとおり、現状把握が十分でないのに、どうしてフォローアップできようか。しかも、この委員会、機構と業者と学識経験者(要するに検討委員会と同じ)で構成され、地元研究者、NGOは入れないと明言しているのだから、結果は見えている。

当日の出席委員(敬称略)
中村 慎吾(座長・比婆科学教育振興会)  石橋 昇(広島大学名誉教授)  日比野 政彦(鳥類保護連盟)
波田 善夫(岡山理科大学) /欠席 鳥居 春巳 (奈良教育大学・最終案についてはとくに意見なしとのコメント) 
 
 
 
素案が承認されたからといって、これで終わりということではない。まだまだ、戦いは続く。
絶望しつつあきらめない、皆さんご協力ください。