HFMエコロジー・ニュース

No26(183) 2005.05.17

 
検討不能委員会
 
「廿日市市吉和西―安芸太田町二軒小屋間(一四・四キロ)の幹線林道計画をめぐる環境保全調査検討委員会(五人)が十六日、広島市南区のホテルで二カ月ぶりに再開した。事業主体の緑資源機構(川崎市)は七月までに、ルート沿いの細見谷渓畔林の動植物などの環境保全措置について承認を得たい意向。議論は大きなヤマ場を迎える。」
以上は、17日付けの中国新聞に掲載された記事の一部である。記事はさらに続いて、
「当初、機構は三月末までの決着を期待したが、議論が白熱し本年度に持ち越し。年度内着工を目指し、延長した委員の任期は七月末までとした。ただ、この日も議題の一部が持ち越しになった。」
 とまとめられているが、この検討委員会はなかなかおもしろい。下手なバラエティ番組などお呼びもつかない。本来静粛にしていなければならない傍聴席からもつい、失笑が洩れたり、誤りを指摘する声が自然とわいてきてしまうのである。
機構側には一日も早く、環境影響調査報告書の承認を取り付け、工事に着手したいという焦りが見られる。しかしながら、肝心の議論がなかなか進まないのである。それには訳がある。本来、こうした検討委員会なるものは、侃々諤々、喧々囂々の議論があってしかるべきで、その意味ではやや本来の姿がかいま見える。しかし、機構がねらう本来は、また違っていて、報告書素案にけちを付けず、一定の時間審議して承認というあり方が、どうやら本来の委員会のあるべき姿であるようだ。
 審議をすればするほど、新たな疑問が出てくるのは実に結構な事である。そうした態度を見せる委員が複数いるだけで、新聞記事のように議論は白熱(?)するのだ。ただし、大いなる疑問もある。これは本当に検討委員会なの?という素朴な疑問である。学術的・専門的な見地から議論するために設けられたこの検討委員会、さてその内実は。
 今日の主な話題は、ヒキガエルの保全措置についてと2月5日の意見聴取会で出された意見及びそれに先立って募集された数多くの意見の取り扱いを巡るものである。これ以後の話は、私の記憶に基づいたもので、部分的に正確でないところもあるに違いない。もし、読者の中で傍聴していた方がいて、その誤りに気づいた人がいれば、是非指摘して下さい。
 ヒキガエルについていえば、基本的にはこの林道工事での影響はそれほど心配する必要はない、というものである。理由その一。林道上にある20カ所以上の水たまりでヒキガエルの産卵が確認されたが、それらは間もなく干上がってしまい、成体まで生き残るカエルはいない。また、林道山手の湿地にも産卵場が確認されているが、これについては湿地が保全される事になっているので問題ない。林道の河川側の湿地に関しては、林道を横断するので轢殺される事が予想されるが、林道を横切る小河川に誘導するような施設(工作物・25cmほどの小さな塀)を設置して保全措置を講じる。ヒキガエルは産卵場所への回帰性が強いので、現在の湿地を保全しておけばそれほど大きな影響を受けずに済む、というのである。回帰性の話はかなり説得力を持ったような印象を受けたが、もし本当にそれほど回帰性が強いのなら、なぜ毎年、干上がってしまう林道上の水たまりに産卵するヒキガエルがいるのだろうか?もっとも、専門家の松井正文さんはさすがに、回帰性が強いばかりだと分布の拡大ができないので、それほど強いとばかりは言えないだろうと、ちゃんと逃げの手を打っている。産卵可能な水場が安定して、しかも限られていれば、どうしても回帰してくるカエルしか産卵できないのだから、回帰性が強いと見えるのは道理である。しかし、渓畔林のような連続して産卵可能な水たまりがあるなら、ある程度見込みのあるところで産卵が起こっても不思議はない。また、林道山手の湿地は大丈夫で、川側が危ないとどうして言えるのだろうか?ヒキガエルは山側からしか来ないのだろうか?細見谷川を挟んで両側にヒキガエルは生息している。川を越え林道を越えててやってくるカエルはいないのだろうか?じつは、こうしたどこからやって来て、どこで何を採食し、どこで冬眠や夏眠しているのかといった生活史を知らなくては、本当の答えは出ないはずである。例えば、ヒキガエルは夜行性で夜、昆虫を食べているという、非常に底の浅い通俗話程度の話し合いに終始している。さらに言えば、林道上の水たまりに産まれた卵が成体まで成長しないから無意味だといわんばかりの話も飛び出す。ヒキガエルにとっても見ればなるほどそうかも知れない。しかし、大量に産み付けられた卵がすべて成体になる生物などこの世には存在しないのである。誰かに食われるといった食うー食われるの関係も生物群集に取っては大事な事である。生産量の多さが渓畔林の特徴なのだから、そうした生物生産という観点から、渓畔林の保全を論じなければ、検討委員としての資質が問われよう。とにかくとても専門的かつ学術的とは言える代物ではなく、つい傍聴席から事実を指摘する声が飛ぶ事となる。貴重な指摘にもかかわらず、座長からは「静粛に」とおしかりを受けることになる。検討委員の中には、両生・は虫類の専門家はいないのだからサンショウウオの話になってくると、ヒダサンショウウオの話なのかハコネサンショウウオの話なのか、はたまたブチサンショウウオの話なのかいっさい分からなくなる。そんな状況で移動ルートがどうのといったところで、筋の通った話になるわけがない。
 一つ一つ指摘すれば、きりがないので、もう一つ、H委員が意見書の中で指摘されているツキノワグマ個体群に関して議論すべきと提案したが、本人は植物が専門でとてもクマの問題を議論することはできない。そこでT委員に水を向けたが、同委員も西中国山地のクマについては知らないという。必要な議論もできないというのは、大きな問題である。T委員は、極めてまじめな態度だと思う。知らないことを知ったかぶりをして、安易に素案を承認するのを潔しとしない態度は賞賛に値する。さらに、同委員は意見書の取り扱いについて、機構側の不遜で不真面目な対応に厳しい意見を述べるなど、それなりの役割を果たしていると評価しても良いであろう。とはいえ、絶滅の恐れのある西中国山地のツキノワグマ個体群の中核的生息地である細見谷渓畔林に生息するツキノワグマ個体群を巡る議論ができないで、何の検討委員会なのか、これは誰でもが抱く疑問である。
 これまで日本生態学会細見谷要望書アフターケア委員会は、生態学的な議論をするよう、具体的な項目を挙げて意見書を提出しているし、公開での議論も提案している。なぜ、緑資源機構はそれを拒むのか?
 ついでにもう一言。検討委員会では学術的・専門的見地から議論をすると再三再四緑資機構は私たちに説明してきた。ところがある委員はそんなことはお構いなしに、近い将来廿日市市民になるので、そうした立場からこの検討委員会に臨むというような意味合いの事を臆面もなく吐露し、完成し、距離が短縮されるのであれば、廿日市から芸北への往復に利用したいなどと一ユーザーとしての計画推進キャンペーン的な発言をしている有様だ。この委員が専門的・学術的な立場から発言した事があるのだろうか。ことあるごとに、文字通り「建設的」意見を求めるといった態度に終始している。しかし、議論は深まるどころか、新たな問題が噴出しているのだ。さすがに、機構側も焦りが出てきたようで、事務局側から「これ以上、委員会の場で新たな問題を提起しないようにあればまとめて提出願いたい」と委員に釘を刺していた。そして極めつけは、機構側の担当部長の問題発言である。「こうした問題は、工事が始まってから調査をすることで対応できるのだから」と委員会の存在を否定するような発言があった。が、委員側からこの発言について講義も異議も出ていない。どうして?  
 素案の中には工事が始まっても、モニタリングを実施し、影響の有無を監視するとの見解が随所に見られるが、現状も把握してないで、影響の有無は誰が判断できるのか? 追跡調査は資源機構が行うことになっており、しかも、仮に影響が大きいと判断されたとしても、工事を止めるシステムはない。そんなもの何の役に立つのか? この環境影響調査報告書素案は徹頭徹尾でたらめである。
 予測交通量も根拠のない推定値。目的もすべて破綻している。そんな道路計画が血税を使って作られるのだ。
工期8年。透水性舗装の耐用年数は10ほどだという。であれば、完成し、廿日市市に移管されてすぐに、透水性舗装をやり直す必要が出てくるということではないか。しかも、丹念に高圧洗浄を繰り返して10年という耐用年数の舗装道路を廿日市市はどうやって維持しようというのだろう。間もなく、廿日市市民になる身にとって、無関心では居られない。絶対、税金は払わないから。