1985年2月、この年も目を腫らして、鼻水を垂らしているメスのサルのことが気になっていた。こんな症状を見せているサルは3頭。思い返せば、毎年この時期にこの3頭が同じ症状を見せている。
はじめは、単なる風邪くらいに思っていたが、さすがに何年も続くと風邪だろうではすまない。
全く偶然だが、職員の一人が「私、花粉症みたい。ヤンなっちゃう」といって部屋に入ってきた。聞いてみれば、目はかゆいし、鼻水は出るしで、とてもうっとうしいのだそうだ。
そのとき、あのサルたちの症状がだぶって見えた。
「そうかぁ、あのサルたちも花粉症なんだ」と妙に確信できた。まさに直感である。「まさか、サルに花粉症なんてあるわけないでしょ」というのがすべての人の反応であった。
この話を聞きつけた某新聞社の記者が早速、京都大学霊長類研究所に問い合わせて記事を書いた。
研究者のコメントは「たぶん何かの間違いでしょう。野生動物に花粉症は考えられません」というものであった。
まともな研究者ならそのように答えるだろうし、わたしでもそう答えたと思う。当時、動物ではアメリカ、ボストンでイヌがブタクサの花粉症にかかった例が一例知られていただけで、ましてや野生動物が花粉症にかかるなんて信じられることでは無かった。しかしどうし見ても、花粉症的症状なのだ。
そんな時、たまたま当時名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科の先生をしていた横田明さんが、広島で結婚式に出席するというのでついでに調べてみようということになったとりあえず、皮内テストといって、アレルゲンとなるような物質を皮内注射して反応を見ることにした。人間でやるのと同じテストだ。サルの腕の毛を剃って10種類のアレルゲンを注射したが、その結果は見事にはずれ。どれも陰性を示し、アレルギーを疑わせる反応は得られなかった。余談だが、サルの皮膚はしわだらけで反応痕を調べようとしてもどこからが反応痕だか分からないのだ。
と、いうわけで、この年の試験でははっきりした結論は出なかった。横田先生の所見では、反応こそ出なかったものの状況的には非常に怪しいということで、さらに詳しいテストをしてみる必要があるとのことで、いよいよ私は確信したのである。よく1886年、今度は準備万端整えて、試験に臨んだ。サルを捕獲して、血液を採取し、サル用に濃度を上げたアレルゲン試薬を皮内に注射して反応を見る。
このたびは、明らかにスギのアレルゲンに反応が見られ、他のアレルゲンとは異なっていることが判明した。また、スギアレルゲンを点眼して反応を見ると花粉症の症状が誘発されることも分かった。
後日、サルの血液中にスギに特異なIgE抗体があることが確認され、宮島のサルは間違いなく、スギ花粉症であることが証明されたのだ。
以上が、世界で初めて野生動物でのアレルギーであるスギ花粉症の発見物語である。
金井塚 務