2005年も押し迫った12月28日から、細見谷渓畔林を縦貫する緑資源幹線林道に関する「環境保全調査報告書」が公開されています。これは11月28日に行われた第9回環境保全調査検討委員会で承認された報告書を公開した文書ですが、この報告書承認にはいくつかの疑問が残ります。その結果、5名いる検討委員のうち2名の委員から、異例とも思える「付帯意見」が提出されています。
緑資源機構は、この付帯意見を別文書として、報告書本文に盛り込んでいません。先日、廿日市市吉和で行われた、有志による「緑資源幹線林道建設促進大会」での説明でも、この意見書には全く触れることなく、あたかも全員一致で保全策が承認されたかの説明をしていました。この点を質そうと、質問時間に挙手をしましたが、あいにく指名されることなく、不問に付されてしまいました。
きわめて重要な事項であるにもかかわらず、あえて説明をしないというのは、今日大きな社会問題となっている耐震偽装事件と相通ずるところがあります。自分たちに都合の悪いことは「知っていても説明をしない」というこの態度が大きな批判を浴びている点です。住民の多く、というかすべてといっても良いかもしれませんが、この点を知らされていません。工事費の見積もりにしても、維持管理にかかる費用にしても、あるいは災害時の復旧事業費にしても、あたかも、地元負担がないかのごとく何も触れません。こういうのは詐欺に限りなく近いのではないでしょうか。少なくとも、社会正義、や公平性という点で、きわめて悪質な態度といわなくてはなりません。
第9回目、検討委員会でも「調査不足」は指摘されていました。特に植物リストに関しては、誰もがそれを認めつつ、座長までが、「報告書には、暫定邸的なリストとして、掲載しましょう」とトンでも発言をする始末です。暫定的な最終報告書とは一体なんでしょうか。傍聴者から大きな失笑が漏れたのは言うまでもありません。さすがにこれはまずいと思ったのか、次には「NGOのリストを借りましょう」と発言し、さらに輪をかけて失笑される始末です。これほどまでに不完全な調査にも関わらず、十分議論を尽くしたとのコメントを各マスメディアを通じて公言してはばからない態度はたいしたものです。
以下、検討委員から提出された意見です。公開された文書を手書きで書き写した者ですので、一部誤りがあるかもしれません。ご了承ください。
  (文責:金井塚務)                     

細見谷林道に関する意見

岡山理科大学総合情報学部  教授 波田 善夫

 委員会の開催は現地視察も含め11回に達した。このような異例ともいえる年月と多数の委員会の開催を余儀なくしたことの原因は、細見谷の自然の優位性に比べ、調査の内容のレベルに大きな乖離があったからである。委員会は一応の結論を出し、結審に至ったが、林道整備に対する各委員会の対応は様々であり、全員一致での結審ではなく、残された課題も多い。今後これらの課題を解決する必要がある。

1細見谷を中心とする西中国山地と整備

  地域の自然を把握し、評価するための調査項目と精度はその立地に発達している自然特性から選定され、実施される必要がある。本件はアセス法に則ったものではないが、その精神は遵守されるべきであり、立地の自然に合わせたメリハリのあるものでなければならない。

2.調査の基本方針と精度

細見谷および周辺地域ではツキノワグマの生息密度が高いことは良く知られた事実であり、包括的調査が必要であった。渓谷であるので水生昆虫などの水生生物に関する調査は重要視されるべきであった。これらの項目に関する調査は通り一遍なものであり、評価可能な段階ではない。その他の調査に関しても調査回数が少なく、路線の変更などもあって適切な時期に十分な調査を実施できていない。具体的にはツキノワグマに関しては多くの観察例や問題が指摘されているが、これに対する調査は文献調査のみであり評価できる段階にない。水生昆虫に関しては調査時期が不適切であるとともに、十分な調査が実施されていない。京都大学の竹門氏を中心とするグループはこの地域の調査を実施し、カワゲラ目として63種を確認し、そのうち少なくとも15種が未記載、ないし所属不明の種であり、特異な地域であると指摘している。しかしながら当該調査ではわずか24種の生育を確認する程度の調査に留まっている。植物相調査は植物に関する調査の基礎となるものであるが、調査回数が少なく、適期に実施されていないこともあって、不十分あるいは不正確である。当該調査では約600種の植物の生育を確認している。一方自然保護団体が実施した調査においても約600種が確認されているがその一致率は60%を超うる程度に留まっている。調査時期を失しているために、ラン科を中心とする貴重種の欠落が著しく、このような調査に立脚した保護保全対策には、大きな問題が内在していると評価せざるを得ない。
 このような調査の不充分さは、何をどの程度理解すべきであるかを事前に検証せず、一般的な調査項目を緑資源の緩やかな基準によって調査したためであり、細見谷の自然を正しく把握し評価できていない。 委員会の結論としては着工を容認するものとなった。当面、自然性の高い地域における工事は実施しないこととし、充実した調査を実施する必要がある。

3、モニタリングおよびフォローアップ 調査

現在の方針は、前述のような調査の不備をフォローアップ調査で補完するとしている。モニタリングは、工事開始前の状態とその後の変化を比較することによって行なわれる。したがって自然状態における調査のレベルが高いことが必要であるが、現時点における調査資料ではモニタリング開始時点のデータとしては不十分なものである。早急にモニタリングの出発点となるデータを取得する必要がある。
4、事業の有効性、コストパフォーマンスに関する評価

本林道の整備は、細見谷の高い自然性、重要性に配慮した結果、道路の幅員は狭小なものとなった。その結果通行車両の推定値は190台/日に低減した。この推定値は行楽シーズンである秋季に計測された数値を元に算出したものである。道路の設計条件が大幅に変更されたため、計算方法の妥当性も含め、事業の有効性や公益性コストパフォーマンスに関して改めて評価する必要がある。通行時間の推計方法に関しては、通常、使用されていない時間距離による配分方式が採用された。検討委員会においても、この計算方法による推計値には疑問が投げかけられており「予測される最大の数値である」と位置づけられている。既存道路よりも、15〜20分程度、通行は余分な時間がかかり、通行量が増大すれば、離合による交通渋滞も発生すると予想される。適切な通行量の推計が行われる必要があり、除雪されないので通行可能期間はやく半年しかない点も考慮すべきであろう。
5、完成後管理

 本林道の整備に関しては多くの制約、条件が設けられた。林道整備後の管理は地元の自治体である廿日市市にゆだねられることになる。林道の整備は、完成以降地元自治体によって高いレベルの維持管理が実施されることが前提であるので、現時点における廿日市市の管理項目の受諾意志表明が必要である。

                   

 細見谷林道整備に関する意見
鳥居春巳
 緑資源機構は、細見谷の自然の重要性を考慮し、アセス法に沿わない形での調査を実施し、当初計画を縮小してきた。委員会は予定を越えた審議を続け、一応の結審をみたものの多くの課題を残した。これは調査の不十分さに起因したものであるが、細見谷の自然の本質を理解しないままに、一般的なアセス調査における調査項目を実施したことに起因したと考える。
 本来であれば対象地域の特性に合わせた調査が実施されるべきであり、当該地域であれば、植物全般と水棲動物あるいはそれらの乾燥化の影響、水質変化の予測、ツキノワグマの棲息状況などが詳細に調査されるべきであったろう。しかるに植物相と水棲昆虫類では多くの種が抜け落ちていることが自然保護団体の調査で指摘された。ツキノワグマについては周辺地域の棲息状況は示されたが、細見谷周辺での調査は実施されてこなかった。
 今後、ファウナとフローラの充実のためにフォローアップ調査が計画されている。報告書の保全計画で注目される貴重種ももとは普通種であった。この普通種も生物学的多様性の視点からは、重要視されるべきである。普通種が人知れず当該地域から消え去ることは工事の影響に他ならない。工事の影響を鮮明にするためには、着工前にファウナとフローラは明らかにされる必要がある。また棲息種の確認のみならず、アンブレラ種としてのクマタカやツキノワグマの生活様式、利用様式を追跡するという手法で長期に渡る調査が実施されるべきである。また調査者精度を上げるためには自然保護団体を含め広範なメンバーによる調査を企画する必要があるだろう。
 着工後の最大の関心事としては、工事の影響を常時モニタリングし、中断等を含めた勧告が早急に可能となるシステムの構築が残されている。供用後は、機構のこの地域を保全するという姿勢が、管理移管される地方自治体に踏襲されるということが担保されていない。この担保を着工の条件とすべきと考える。