聖地巡礼のお話し その1
仕事の都合で岐阜県に住んで1年半余りになりました。岐阜県には地球科学の「聖地」とも言うべき場所がいくつかありまして,地球と戯れるには絶好のロケーションであります。ということで,2回に分けて4箇所の聖地を紹介するお話しをいたします。
岐阜県大垣市金生山
濃尾平野の西の端,あと10km西に行けば天下分け目の合戦で有名な関ヶ原,というところに金生山(きんしょうざん)があります。東西1km,南北2kmのこの山は全山が石灰岩でできていて,二畳紀=約2億5千万年前のサンゴ礁に生きていた生物の化石が大量に含まれています。金生山では江戸時代から石灰岩が採掘されていたということで,かの有名な木内石亭の「雲根誌」にもここの化石が紹介されているということです。明治時代になるとヨーロッパからきた科学者によって研究が始まり,これに刺激を受けた国内の科学者も次々に論文を発表し始め,金生山はまさに「わが国の古生物学発祥の地」ということになります。
ところで,学校で石灰岩は白いものだと習った方は少なくないと思いますが,金生山には真っ黒い石灰岩があり,その中に多くの化石が含まれています。この「黒い石灰岩」はハンマーで叩くと石油のような匂いがして,有機物や石油成分が含まれていることがわかります。このことは,金生山の石灰岩が堆積した海が栄養豊富だったことを意味しているようで,他の産地の同種類の化石と比較すると,金生山のものは数倍から10倍以上も大きなものが知られています。石灰岩の採掘が大規模ではなかった昭和初頭には,風化によって母岩から分離したソフトボールやサッカーボールほどの大きさの巻き貝の化石がごろごろと転がっていたということです。なんともうらやましい話。現在では石灰岩の採掘が風化よりも早いスピードで山を削り取っていきますから,こうした立派な化石は期待できないようですが,「金生山化石館」に立派な標本が数多く展示されています。
私が金生山を初めて訪れたのは中学1年生の春休みだったと記憶しています。化石趣味を始めて約1年,我が国古生物学発祥の地に立ってワクワクしたのを憶えています。当時,東京に住んでいた私は栃木県にでかけて金生山と同じ時代の化石を採集したことがあったのですが,ウミユリは指程度の太さが精一杯でした。それが金生山では腕のような太さのものが石灰石採掘現場の壁にのたくっているではないですか!デカい!デカすぎて採れない!それでも,いくつもの化石を採集して帰ったのですが,高校を卒業するときに全部寄付してしまったのか,現在は手元に残っていません。もったいないことをしたかな...
それ以来,約20年振りに訪れたのが2003年2月23日でした。この日は準備がなかったので化石採集はしなかったのですが,その後も2度訪れて化石採集をしました。化石館にあるような化石は見つけられるわけがないのですが,我が国古生物学発祥の地で,自分にとっても原点。どんなものでも嬉しい記念品です。しかし,「聖地」も現代社会の需要に抗うことはできず,訪れるたびに金生山は"残り少なく"なっています。風化部はおろか,山自体がなくなってしまう日もいずれ来ることでしょう。「聖地」はやがて「整地」される...なんてね。まぁ,"保護"という名の下に放置されて風化して土に帰っていくよりは有意義なんでしょうね。そして,私の記憶は決して風化しません。
岐阜県本巣郡根尾村
岐阜市から北西に約30km,濃尾平野から福井県に抜ける山に入ったところにあるのが根尾村です。人口2,000人余りのこの山村には国指定特別天然記念物が2つ,国指定天然記念物が1つ,あわせて3つもあるのです!天然記念物は「淡墨桜(うすずみざくら)」と呼ばれる桜の巨木です。樹齢1,500余年,高さ16.3m,幹の周囲が9.9mの世界一の名桜だそうです。花が散る間際に淡い墨のような色になることからこのような美しい名前で呼ばれているということで,開花の時期には観光客がどっさり訪れているという報道が毎年あります。観光客が嫌いな私は見に行ったことがありません。いつまでも枯れずにいて欲しいものですね。
特別天然記念物というのが根尾谷断層と菊花石です。どちらも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?なんと同じ村にあるんですよ!
1891年10月28日,マグニチュード8という「濃尾地震」が発生し,7,000を越える人名が失われました。このとき福井県から岐阜県にかけて延長80kmにもなる断層が地表に現れました。中でも最も大きな断層が現れたのが根尾村一帯で,水鳥(みどり)地区では6mの段差(水鳥断層崖とよばれる逆断層)が発生し,中地区では断層をはさんで横方向に7m程度のズレ(左横ずれ断層)が発生しました。兵庫県南部地震(いわゆる阪神大震災)で地表に現れた断層は最大で2mだったことから,如何に大きな地震だったかがお分かりいただけると思います。この時代まで,地震が何故起きるのかということには諸説がありましたが,この地震をきっかけに「断層がズレるときの振動が地震である」という考え方に固まったということですから,根尾村は「地震学発祥の地」であると言うことができます。私は2003年10月26日に訪れましたが,水鳥断層崖の上に立派な「地下観察館」が建てられ,断層周辺を掘削(トレンチ)して断ち切られた岩盤がみられるようになっています。また,中地区では,もともと真っ直ぐだった小径や土地の境界線が断層によってズレてしまった跡が残されています。どちらも見ているだけで地震動が伝わってくるような,自然の偉大さを思い知らされるような,そんな緊張感があります。
根尾村の山の中から産するのがSaruneko Collectionでもお馴染みの「菊花石」です。特別天然記念物ですからホンモノの産地で採ることはできませんし,車から降りて1時間半程度歩かなければならないとかいう話です。で,あわよくばなんて思いながらウンと下流の川原で探してみたのですが,見つけられるワケがなく,あえなく撤退。菊花石というのは海底に噴出した溶岩が冷えて固まるときに放射状の割れ目ができ,あとからその割れ目を方解石などが充填したもののようです。これを磨くと暗色の地に菊の花が咲いたように見えて,まさに「鑑賞石の最高峰」,海外の鉱物標本にはないワビ・サビの世界なんですよ。"Japanese
taste"なんですよ。根尾村から岐阜方面に国道を走っていると菊花石の加工・販売のお店があります。特別天然記念物に指定されていないところからも産出があるので,それを加工・販売しているお店です。お店の中は,これがまぁ,素晴らしいの一言に尽きます。ズラッと並んだ大小の菊花石!不純物のためか,色も一つ一つ微妙に違うし,当然形も違います。一晩ゆっくり,お酒を飲みながら眺めていたくなるような雰囲気です。お店の奥さんが親切に説明して下さるのですが,「花と違って水をやる必要もないですし,枯れることもありません」とか「同じ石は二つとないですから」とか,次々に繰り出される殺し文句(?)に負けてついつい買ってしまいました。もう一つ,未加工の石を格安で分けていただいて,こちらは耐水サンドペーパーとスポンジ研磨材で磨いてみました。お店で売られているようなツルツルピカピカにはなりませんが,自分の手をかけたものとなると他に替え難い愛着が湧いてきます。菊花石の採掘地も山深いところで,掘り出してくる方も少なくなってきているとかで,流通量もだんだん減っていくんだと思います。そんな話もワビ・サビにつながるような気がして,それはそれで仕方ないのかなと思ってしましました。
(平成15年11月1日記す)
次回は「日本3大ペグマタイト」中津川市一帯と「日本最古の化石」吉城郡上宝村を紹介いたします。